
「自分にもできそう」。
飲食店の開業で、この言葉ほど慎重に考えたいものはありません。
正直に言うと、店を開けることと、利益を残しながら続けることは、まったく別の仕事です。
「カフェなら小さく始められそう」「バーなら料理の経験が少なくてもできそう」「焼肉なら良い肉を仕入れれば勝負できそう」
開業を考え始めたとき、そんな期待を持つのは自然です。
しかし、始めやすく見える業態ほど、ほかの店との違いをつくれず、価格競争に巻き込まれることがあります。
私は19歳で飲食業界に入り、居酒屋を独立開業して18年目になる現役店主です。
この記事では、倒産の公表データと現場の経験をもとに、焼肉店・カフェ・居酒屋やバーの落とし穴を整理します。
- 倒産件数と閉店率を混同してはいけない理由
- 焼肉店・カフェ・居酒屋やバーで起こりやすい失敗
- 開業前に調べるべき来店理由・立地・コスト
- 必要客数と現金の持久力を数字で考える方法

好きな料理や雰囲気があれば、小さなお店なら始められそうって感じがするけど?

始めるだけならできるかもしれないけど、その店をお客さんが何度も選ぶ理由まで考えないと危ないんだよ。
結論は「何の店をやりたいか」よりも、「誰が、なぜ通い、いくら利益が残るか」を先に決めることです。
飲食店の倒産データは「閉店率ランキング」ではない
最初に確認したいのが、ニュースに出る倒産件数の意味です。
数字を誤読すると、開業前に本当に考えるべき問題が見えなくなります。
2025年の飲食店倒産は900件、過去最多
帝国データバンクの調査では、2025年の飲食店倒産は900件でした。
前年の894件から6件、約0.7%の増加で、3年連続の増加です。
うち負債5,000万円未満は696件で、全体の77.3%を占めています。
食材費や光熱費、人件費が上がる一方、簡単に値上げできない小規模店の苦しさが数字に表れています。
倒産件数が多くても閉店率が高いとは限らない
この900件は、負債1,000万円以上で法的整理に至った倒産を集計した数字です。
自主的な閉店や個人店の廃業をすべて含む数字ではありません。
また、居酒屋の倒産が200件あっても、全国の居酒屋店舗数が多ければ、1店舗当たりの倒産率が最も高いとは限りません。
母数と集計条件がそろわない以上、「危険な業態TOP3」と断定するのは不正確です。
件数を恐れるより失敗の構造を知る
開業する人が見るべきなのは、何件つぶれたかだけではありません。
値上げできない構造なのか、客単価が足りないのか、固定費が重いのか。
原因を自分の店の計画に当てはめれば、ニュースは単なる不安材料ではなくなります。
焼肉店・カフェ・居酒屋やバーに潜む3つの落とし穴
この3業態は、商品や設備をそろえれば形にしやすそうに見えるかもしれません。
けれども、「提供できる」と「わざわざ来てもらえる」は違うのです。
焼肉店は良い肉だけでは価格競争から抜けられない
焼肉は調理工程が少なく見えますが、肉を仕入れるだけで価値が生まれるわけではありません。
部位ごとの切り方、歩留まり、タレや薬味、焼き方の提案まで含めて一皿の完成度が決まります。
帝国データバンクによると、2025年1〜8月の焼肉店倒産は32件でした。
輸入牛肉や野菜の高騰に対して値上げしづらく、安さを売りにした店ほど厳しい競争にさらされています。
出典:帝国データバンク「焼肉店」の倒産動向(2025年1〜8月)。
個人店が大手と同じ品数と安さで競えば、仕入れ量や広告費の差がそのまま不利になります。
例えば、6席のカウンターで一人焼肉を楽しめる店、予約制で少量の希少部位を出す店、家族が早い時間に使いやすい店。
こうした方向性はあくまで企画例ですが、「誰の、どんな食事を満たすか」が明確であるほど、値段以外の比較軸をつくれます。

良い仕入れ先を知っているだけでは、他のお店との差にならないの?

仕入れは強みの一部だよ。でもお客さんは仕入れ先を買うわけじゃない。その肉をその店で食べたい理由が必要なんだ。
- 可食部分の歩留まりを部位ごとに計算する
- タレ・薬味・ガス・清掃費を含めた一皿の利益を確認する
- 「安い」「量が多い」以外の来店理由を10秒で説明する
カフェはコーヒーより「過ごす理由」が問われる
カフェの開業では「お菓子を褒められた」「好きな内装にしたい」という思いが出発点になることがあります。
ただし、友人の「おいしい」と、毎月お金を払って通う行動は別です。
帝国データバンクの調査では、2024年度の喫茶店・カフェ倒産は2025年2月までの11カ月で66件でした。
コーヒー豆や人件費、賃料の上昇に加え、コンビニや大型チェーンとの競争が背景にあります。
出典:帝国データバンク「喫茶店」の倒産動向(2024年度)。
大切なのは、お客さんがその店をどう使うかです。
仕事の合間に20分休む、子どもと昼食をとる、静かに本を読む、手土産用の菓子を買う。
「落ち着く店」を目指すだけでは不十分で、席の配置や照明、商品、接客にまで落とし込む必要があります。
駅から遠いなら、歩いてでも食べたい料理や予約してでも買いたい商品など、不便さを上回る目的が必要です。

おしゃれなカフェなら自然に人が集まるって思っていたけど、そう簡単じゃないんだね。

内装は大事だよ。でも、誰が何時に来て何分使うかがわからなければ、席数も売上も計画できないんだ。
なお、喫煙を新規カフェの売りにする場合は法令の確認が欠かせません。
2020年4月から飲食店は原則屋内禁煙となっており、既存店向けの経過措置を新規開業の前提にはできません。
居酒屋・バーは「酒がある」だけでは選ばれない
2025年の「酒場・ビヤホール」の倒産は204件で、飲食店倒産900件の約22.7%です。
全店舗数に対する倒産率を示すものではありませんが、同業態は3年連続で200件を超えています。
バーは小さな設備でも始められそうに見えますが、酒を飲むだけなら自宅でもできます。
好みに合う一杯を提案してもらえる、店主と会話できる、料理との組み合わせを楽しめる。
こうした体験があるから、家飲みではなく店を選びます。
居酒屋も同じです。「刺身も焼き鳥も揚げ物もある」だけでは、便利でも記憶に残りにくいものです。
刺身なら何が得意なのか、天ぷらなら何を食べてほしいのか。店の特技を一つ言えるだけで印象は変わります。
飲み放題の安さや酒の粗利だけを頼りにした計画は、客数や注文数が崩れると苦しくなります。
- 翌日、お客さんは店の何を誰かに話すか
- 近隣の競合ではなく自店を選ぶ理由は何か
- 酒を1杯しか頼まないお客さんでも収益が成り立つか
生き残る店は原価・人件費・家賃を開業前に計算する
味や接客が良くても、支払いが続けば店は残せません。
開業前に確認するのは、売上そのものではなく、支払ったあとに現金が残る仕組みです。
原価率と人件費率は業態ごとに違う
日本政策金融公庫「創業の手引+」には、2019年の調査に基づく業種別の原価率・人件費率が掲載されています。
最新の価格設定にそのまま使うのではなく、自分の計画に費用の漏れがないかを確認する目安としてください。
| 業態 | 原価率 | 人件費率 | 合計 |
|---|---|---|---|
| 酒場・ビヤホール | 33% | 34% | 67% |
| 喫茶店 | 30% | 36% | 66% |
| バー・キャバレー | 18% | 38% | 56% |
出典:日本政策金融公庫「新たに飲食業を始めるみなさまへ 創業の手引+」(小企業の経営指標調査2019の参考値)。
酒場・ビヤホールの例では、月商300万円に対し原価と人件費だけで201万円、差額は99万円です。
この99万円から家賃、光熱費、決済手数料、広告費、修繕費などを負担します。借入元金の返済は会計上の費用とは扱いが異なりますが、現金の支出として別に確認が必要です。
個人店では店主自身の生活費や将来の設備更新も考えなければいけません。
サイト内では、私自身の店舗データを使ったFLコストの管理方法も詳しく紹介しています。
売上目標は客単価と来店人数に分解する
月商300万円を目指すとして、客単価が3,000円なら必要な来店数は月1,000人です。
25日営業なら1日40人で、20席の店なら平均2回転が必要になります。
ただし、昼夜営業で2回転するのか、夜だけで40人を呼ぶのかでは難易度が違います。
雨の平日、給料日前、連休明けも同じ人数が来るとは限りません。
日本政策金融公庫も、客単価・席数・回転数・営業日数から売上を検討する考え方を示しています。
| 項目 | 計算例 |
|---|---|
| 月商目標 | 300万円 |
| 客単価 | 3,000円 |
| 月間必要客数 | 1,000人 |
| 営業日数 | 25日 |
| 1日必要客数 | 40人 |
| 20席の場合の平均回転数 | 2回転 |

月商300万円って聞くと大きい数字だけど、1日40人ならできそうかな?

そこが落とし穴だよ。忙しい金曜だけじゃなく、暇な月曜や雨の日も含めた平均40人だからね。
損益分岐点と現金の持久力を別々に見る
例えば、月の固定費が100万円で、お客さん一人から変動費を引いた後の限界利益が2,000円なら、固定費を回収するには月500人が必要です。
25日営業なら1日20人です。
ただし、売上が固定費を超えても、借入元金の返済や店主の生活費に充てる現金が十分とは限りません。
計画売上の70%しか達成できない月でも何カ月支払えるかを、開業時点で試算しておきます。
内装や厨房設備に資金を使い切ると、初月から資金繰りに追われる可能性があります。
開業資金の費用項目については、15坪・25席の居酒屋を例に解説した記事も参考にしてください。
立地と来店理由は開業前に足で確かめる
駅前なら安心、家賃が安ければ有利とは限りません。
必要なのは、狙っているお客さんが、実際に来る時間帯をつかむことです。
物件は平日と休日、昼夜の4回以上を見る
朝に人が多い通りでも、夜の居酒屋にはつながらないことがあります。
休日に家族連れでにぎわう場所でも、平日の昼は静かかもしれません。
候補地では少なくとも平日昼・平日夜・休日昼・休日夜の4回、時間帯を変えて観察してみましょう。
10分間の通行量、年齢層、組人数、近隣店への入店数を記録すれば、印象だけの判断を減らせます。
4回は最低限の現地確認の提案であり、これだけで需要が保証されるわけではありません。天候や季節の違いも確認できれば理想的です。
競合は同じ業態だけではない
カフェの競合は別のカフェだけでなく、コンビニやファストフードかもしれません。
居酒屋の競合は近所の酒場だけではなく、自宅の惣菜と缶飲料という選択肢かもしれません。
お客さんは「飲食店の種類」で比べるのではなく、自分の時間とお金の使い道で比べています。
その選択肢のなかで、自店を選ぶ理由を具体的な言葉にすることが必要です。
店主の自信よりお客さんが戻ってきた理由
独立して18年目の私でも、「この料理がおいしいから絶対に続く」とは言えません。
料理の味に自信を持つことは大切ですが、店を知ってもらい、来てもらい、納得して払ってもらい、再び来てもらって初めて経営になります。
近いから、待たないから、一人でも気楽だから、店員が顔を覚えてくれるから。
店側が軽く考えている要素が、再来店を支えていることもあります。
会計時に「今日は何がきっかけで来てくれたんですか」と自然に聞き、答えを記録してみてください。
30件ほど集めれば、店主が考えていた強みと、お客さんの評価の違いを考える材料になります。

自分が売りたいものと、お客さんが来たい理由って同じとは限らないんだね。

そうだよ。自分の好きな店をつくるだけじゃなく、お客さんが使いたい店をつくる。その両方が必要なんだ。
まとめ|「自分にもできそう」を数字のある開業計画に変える
飲食店開業を考えるとき、「自分にもできそう」は大切なきっかけになります。
ただし、開業した努力そのものにお客さんがお金を払ってくれるわけではありません。
料理、接客、立地、価格、そして継続できる収支を一つにつなげる必要があります。
- 倒産件数と閉店率を分けて読む
- 商品だけでなく、具体的な来店理由をつくる
- 曜日と時間帯ごとに立地を調べる
- 必要客数・回転数・固定費を計算する
- 売上が計画の70%でも支払いが続けられるか確認する
| 確認項目 | 開業前にすること |
|---|---|
| 倒産データ | 集計条件と母数を確認する |
| 店の強み | 誰がどんな場面で来るか決める |
| 立地 | 平日・休日と昼・夜に現地確認する |
| 売上 | 客単価×客数×営業日数に分解する |
| 費用 | 原価・人件費・家賃などを積み上げる |
| 資金繰り | 低売上時の現金残高と返済を確認する |
最初の7日間で、この表にある項目を一枚にまとめてみてください。
店に必要なものを買い始めるより前に、数字とお客さんの行動を確かめる方が安全です。
お客さんの注文内容と利益を結びつけるメニューづくりについては、こちらの記事も参考になります。
開業準備で原価や資金を記録するなら、仕入れ・経費を一覧化できる会計ソフトや表計算ツールも候補になります。導入前に月額費用と必要な機能を比較してみてください。
夢だけで始めず、数字だけで諦めない。
「このお客さんの、この時間を満たすための店だ」と説明できる計画をつくりましょう。

開業前に調べることは多いけど、お店を続けるための準備なんだね。

その通りだよ。開ける日のことだけじゃなく、何年も続く店を考えていこう。今日も同じ飲食の世界でがんばっていきましょう!
参考資料
| 資料 | 発行元 |
|---|---|
| 「飲食店」の倒産動向(2025年) | 帝国データバンク |
| 「喫茶店」の倒産動向(2024年度) | 帝国データバンク |
| 「焼肉店」の倒産動向(2025年1〜8月) | 帝国データバンク |
| 創業の手引+ | 日本政策金融公庫 |
| 創業計画書セルフチェック | 日本政策金融公庫 |
| なくそう!望まない受動喫煙 | 厚生労働省 |
| 参考動画 | YouTube |





