

年商20億円の会社が5,800万円で売られた……って、どういうこと?

その数字の裏に、フランチャイズビジネスの構造的な問題が全部詰まってるんだよ。
2022年に横浜で産声を上げ、わずか3年で全国381店舗まで拡大した「鰻の成瀬」。
テレビにも取り上げられ、”令和のフランチャイズ革命”とまで言われたこのチェーンが、2026年3月に270店舗を抱えたまま5,805万円で売却されたことが明らかになりました。
私は19歳から飲食業に入り、現在は15坪・25席の居酒屋を独立開業して18年目になります。
チェーン店とは無縁の個人経営ですが、フランチャイズという”仕組みを売るビジネス”の怖さは、現場にいるからこそよく見えます。
この記事では、鰻の成瀬に何が起きたのかを整理し、飲食業に携わるすべての人が知っておくべき教訓を現場目線で解説します。
・鰻の成瀬がなぜ5,800万円で売却されたのか。
・14.5億円の負債と急成長の関係。
・120店舗超が閉店した本当の理由。
・フランチャイズ投資で失敗しないためのチェックポイント。
鰻の成瀬とは?3年で381店舗を達成した急成長の正体

「鰻の成瀬」は2022年9月、横浜・平沼橋に1号店をオープンしたうなぎ専門のフランチャイズチェーンです。
運営会社はフランチャイズビジネスインキュベーション株式会社(FBI社)、代表は山本昌弘氏。
英会話スクールやハウスクリーニング事業を経て、FCコンサルタントとして独立した「飲食の専門家ではない経営者」が立ち上げた異色のチェーンです。

飲食の専門家じゃない人が、なんでそんなに広がったの?

「料理を売るんじゃなく、仕組みを売る」という発想が加盟希望者に刺さったんだよ。
急成長の要因として語られていたのは以下の4点です。
・一等地不要のローコスト出店モデル。
・職人不要のオペレーション標準化。
・SNS(X)活用で広告費ゼロの加盟店募集。
・客単価約2,500円の”中価格帯という空白市場”を狙った戦略。
2024年にはテレビ東京「カンブリア宮殿」にも出演し、わずか2年で250店舗を突破。
しかしその絶頂期の直後から、雲行きが怪しくなっていきます。
私が現場で感じることを正直に言うと、「職人不要・未経験でも開業できる」という言葉は、裏返せば”誰でも同じものが作れる”ということでもあります。
個人店が勝負できる最大の武器は「この店にしかない何か」です。
その部分を最初から削ったモデルが、長期的な差別化にどう機能するのか──開業前から考えておくべき問いだったと思います。
年商20億円の会社がなぜ5,800万円で売られたのか

2026年3月31日、AIフュージョンキャピタルグループがFBI社の株式58%を5,805万8千円で取得し、子会社化したことが公表されました。
この数字、違和感を覚えませんか?。
年商20億円を超える企業が、なぜ5,800万円で売れてしまうのでしょうか。
14.5億円の負債がある財務の実態
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 年商 | 約20億8,000万円 |
| 営業利益 | 約5,460万円 |
| 純資産 | 約7,890万円 |
| 負債総額 | 約14.5億円 |
| 当期純利益 | △3,941万円(赤字) |
参照:M&Aオンライン(2026年3月31日) https://maonline.jp/news/20260331a
通常のM&Aでは「純資産+のれん代(将来の収益力)」で売却価格が算定されます。
純資産が7,890万円あるにも関わらず、株式58%が5,800万円というのは、会社全体の時価総額が約1億円に過ぎない計算になります。

純資産より安い値段で売られてるってこと?

買い手が14.5億円の負債も一緒に引き受けることが前提だからね。実質的に「負債を背負ってもらう」取引とも見えるね。
5,800万円という数字は”安値売却”ではなく、14.5億円の負債込みで見た結果です。
年商の数字だけ見て健全な会社と判断するのがいかに危険か、この事例が示しています。
1年で総資産が11億円増えた謎
FBI社の財務諸表にはさらに不可解な事実があります。
前期(2024年8月期)の総資産:約4億4,000万円
当期(2025年8月期)の総資産:約15億3,000万円
→ わずか1年で約11億円膨張
フランチャイズ本部は通常「ロイヤリティを受け取るだけ」の身軽なモデルのはず。
FBI社のロイヤリティ構造は「固定10万円+売上の4%」であり、本来は現預金と売掛金が中心の財務構造になるはずです。
にもかかわらず総資産・負債が急増した背景として指摘されているのが、「加盟店を増やすために本部が資金を立て替え続ける構造」の存在です。
出店のたびに本部が資金を出し、それが雪だるま式に膨らむ自転車操業に陥っていた可能性が高いと見られています。
120店舗超が消えた理由──加盟店オーナーたちの現実

最盛期(2025年):約381店舗
2026年3月時点:約270店舗
→ 約111店舗(約30%)が閉店
参照:M&A Online|AIフュージョンキャピタルが鰻の成瀬運営会社を子会社化
数ヶ月で全体の3割が消えたことになります。2026年3月、撤退した加盟店の代表が公にコメントを発表し、「自分ではコントロールできない事象の多さ」を閉店理由として挙げました。

「自分ではコントロールできない」って、どういうことだろう。

自分の経営の問題じゃなく、本部の構造的な問題だってことを言ってるんだよ。
SVなし・二等立地──本部サポートの実態
フランチャイズ本部の重要な役割の一つが、加盟店を巡回・指導するスーパーバイザー(SV)の存在です。
大手コンビニや飲食チェーンでは、SVが定期的に加盟店を訪問し、売上改善・オペレーション指導・クレーム対応を一緒に考える体制が整っています。
複数のメディア報道によると、FBI社にはSV制度が一切存在しなかったという指摘があります。
また出店戦略においても「一等地でなくて良い」というメリットが、実際には「集客が見込みにくい二等・三等立地への誘導」になっていたとされ、開業後に客足不振に苦しんだオーナーが多かったと報告されています。
私が18年経営してきた中で感じること──「職人不要・誰でもできる」という仕組みは参入ハードルを下げる一方で、差別化のなさと商品力の弱さに直結します。個人店は「あなたの店じゃなきゃダメ」という理由があるから生き残れる。
その部分をフランチャイズで担保するのがSVであり、サポート体制なのです。
社長の株式売却タイミングが示すもの
この問題で最も気になるのが、創業社長・山本昌弘氏の動向です。
2025年11月、山本社長は業界メディアのインタビューで「飲食業界の立て直しに情熱を持って取り組む」と熱弁を振るっていました。
しかしその約4ヶ月後、2026年3月に保有株式52.5%を全て売却し、会社から完全に手を引いたことが明らかになります。

インタビューの4ヶ月後に全部売るって、なんか怖い。
さらに注目すべきは、買い手のAIフュージョンキャピタルがすでにFBI社に約2億6,000万円を貸し付けていた大口債権者だったという事実です。
つまりこの取引の構図は、「焦げ付く可能性のあった2.6億円の貸付金を保全するために、債権者が自ら経営権を引き取らざるを得なかった」という見方もできます。
カンブリア宮殿出演・メディア露出の絶頂期から、その直後に閉店が加速し財務悪化が進んでいたとすれば──外から見えていた「成功」の絵と、内側の実態の乖離の大きさに気づかされます。
フランチャイズビジネスは「本部と加盟店の情報格差」が根本的なリスクです。
この事例はそれを改めて教えてくれています。
フランチャイズ投資で失敗しない3つのチェックポイント

鰻の成瀬の事例を反面教師に、フランチャイズ加盟前に必ず確認すべき3点を整理します。
本部の財務状況を自分の目で確認する
フランチャイズ本部には、法定開示書面の提出が義務付けられています。
総資産・負債・純資産のバランスを必ず確認しましょう。
負債が純資産を大きく上回っている場合は要注意です。
「年商〇〇億」「店舗数〇〇店」という表面の数字だけに飛びつかず、当期純利益が黒字か・負債の規模はどうかを確認する習慣が身を守ります。
SVサポート体制の有無と質を具体的に聞く
「どんなサポートを、どれくらいの頻度で、誰がやってくれるのか」を具体的に確認してください。
曖昧な答えしか返ってこない本部は危険信号。
個人店経営者として言うなら、開業後に一人で抱える問題の量は想像を超えます。
サポートがない状態での経営は、丸腰で戦場に立つようなものです。
既存の加盟店オーナーに直接話を聞く
本部の説明だけを信じず、実際の加盟店オーナーに連絡を取って話を聞く。
これが最も確実な情報収集です。
特に、すでに撤退したオーナーがいれば、その理由を調べることが重要です。
ポジティブな声より、離脱した人の声の方が真実に近い場合がほとんどです。

一人で判断しないことが大事なんだね。

フランチャイズを比較検討するときは、複数の専門機関に相談するのも有効だよ。
フランチャイズを選ぶとき、私が個人経営者として特に重視してほしいのは「本部が本当に儲かっているかどうか」です。
加盟金とロイヤリティで本部が潤い、加盟店は開業費を回収できないまま撤退する──そういう構造になっていないか、数字で確認することが何より大切です。
また、フランチャイズ加盟前には複数のチェーンを比較することが鉄則。
1つの本部の話だけを聞いて決断するのは、片方の当事者の言い分だけで契約するのと同じ。
比較することで見えてくる「その本部が強調していないこと」が、最も重要な情報だったりします。
まとめ──「急成長」と「健全経営」は別物
・「急成長=健全」ではない。表面の数字と財務の実態は別物。
・フランチャイズ本部の負債状況は、加盟店にとって最大のリスク要因。
・SVなどのサポート体制がない本部は、オーナーを孤立させる。
・創業者・経営者の言動とそのタイミングは、会社の真の状況を映す。
・270店舗が5,800万円という数字は「失敗の結果」ではなく「構造的問題の集積」。
私が18年間、小さな個人店を続けてこられたのは、ロイヤリティも本部依存もなく、自分で判断し自分で責任を取ってきたからだと思っています。
フランチャイズには「仕組み」と「サポート」という大きな価値があります。
しかしその価値が本物かどうかを見極める力を持たないまま加盟するのは、大切な資金と時間をリスクにさらすことになります。
鰻の成瀬問題は、人ごとではありません。
飲食業に携わるすべての人が、この事例から何かを持ち帰ってほしいと思います。
独立を考えているなら、フランチャイズという選択肢を検討する前に、「自分で判断し、自分で責任を取る経営」がどういうものかを理解しておくことが土台になります。
フランチャイズは「仕組みを買う」ビジネスですが、その仕組みが正常に機能する保証はオーナー自身が事前調査で担保するしかありません。

数字だけじゃなく、その裏を読む目を持つことが大事なんだね。

「知らなかった」では済まされないのがビジネスの世界だからね。考え続けながら動こう。
今日も同じ飲食の世界で、一緒にがんばりましょう!

