
「物価高で値上げすれば、お客さんは減る」。
その常識、じつは半分まちがいです。
同じ仕入れ値の高騰の中で、過去最高の売上を叩き出している飲食店・企業がいくつもあります。
倒れていく店と伸びていく店、その分かれ目は物価高そのものではありません。
私は19歳でこの世界に入り、居酒屋を独立開業して18年目の現役店主です。
仕入れの値上げ通知を見るたびに頭を抱えてきた人間の一人。
この記事では、物価高を逆手に取って売上アップを実現した飲食店・小売の成功事例を5つ、最新の決算データつきで紹介します
。読み終わるころには、「値上げか値下げか」ではない第三の道が見えているはずです。

物価高で潰れるお店、すごく増えてるって聞くよ?それなのに売上を伸ばすなんて、できるものなの?

できるんだよ。むしろ同じ嵐の中で過去最高益を出してる会社がある。違いは「考え方」だけなんだ。
・物価高でも売上アップを実現した飲食店・企業5社の成功事例。
・大手と個人店、それぞれの値上げ対策と「逆転のカギ」。
・5つの事例に共通する「逆転の法則」。
・明日から自分の店で試せる客単価アップの3アクション。
物価高で「倒れる飲食店」と「売上を伸ばす店」が同時に生まれている
まず、いま飲食業界で起きていることを数字で確認します。
けっして明るい話だけではありません。
飲食店の倒産は過去最多、物価高が経営を直撃
帝国データバンクの調査によると、2025年の飲食店の倒産は900件に達し、前年(894件)を上回って過去最多を更新しました。
食材費や人件費、光熱費の高騰。そこに同業との競合激化が重なります。
とくに中小・零細の店は、容易に値上げに踏み切れないまま体力を削られている状況。
【2025年 物価高と飲食店をめぐる現状】
・飲食店の倒産:900件(過去最多/前年894件)
・倒産業態トップ:酒場・ビヤホール(居酒屋)204件
・飲食店業界の価格転嫁率:32.3%(全業種平均39.4%を下回る)
※出典:帝国データバンク「飲食店の倒産動向(2025年)」
「価格転嫁に関する実態調査(2025年7月)」
居酒屋を主体とする業態が倒産件数のトップ。同じ居酒屋を営む身として、この数字はずっしりと重い現実です。
それでも物価高で「過去最高益」を出す店がある理由
ところが同じ環境の中で、です。
帝国データバンク自身も指摘しています。大手チェーンの多くは、セントラルキッチン方式やスケールメリットを生かしたコスト軽減、インバウンド需要などを背景に、増収増益の決算を叩き出していると。同じ嵐の中で、沈む船と進む船がはっきり分かれているわけです。

同じ物価高なのに、こんなに差が出るんだね。やっぱり大きい会社だから強いってことなのかな?

やってる「考え方」は個人店でもそっくり真似できる。むしろ最後に紹介する個人居酒屋の話は参考になるよ。
物価高で売上を伸ばした大手3社の値上げ対策・成功事例
ここからは具体的な企業の話でまずは誰もが知る大手3社が、物価高をどう「武器」に変えたのかを見ていきます。
スシロー:値上げ失敗から学んだ「値下げ×値上げ」の二刀流
回転寿司のスシローは、一度しくじっています。2022年10月に値上げを実施した結果、客足が遠のいた経験を持つのです。
その教訓から打ち出したのが「値下げと値上げの同時設計」。
100円皿のキャンペーンで客数を引き戻しつつ、260円皿など魅力ある高単価メニューで客単価も上げる。
さらに大型ディスプレー「デジロー」を導入し、視覚的な演出で来店動機をつくりました。
【スシロー(FOOD&LIFE COMPANIES)の結果】
・2024年9月期:売上収益3,611億円(前期比19.7%増)
・2025年9月期:売上収益4,295億あ円(19.0%増)、営業利益360億円(54.4%増)
・売上・利益ともに過去最高を更新。国内の客数4%増、客単価6%増
※出典:FOOD&LIFE COMPANIES 2025年9月期決算
ポイントは「何を下げて、何を上げるか」を設計したこと。値下げと値上げは、敵ではなく組み合わせる相棒。これが二刀流の発想です。
サイゼリヤ:物価高でも「値上げしない」を武器に客数アップ
ほぼ全ての外食チェーンが値上げに走る中、あえて価格を据え置いた「逆張り」の代表がサイゼリヤです。
では、なぜ値上げせずに利益まで伸ばせたのか。カギはコスト構造そのものの変革。2024年8月に全店でセルフレジ導入を完了し、スマホを使ったQRコード注文も拡大。DXで店舗の作業負担を減らし、増えた客数をスムーズにさばける体制を整えたのです。
【サイゼリヤの結果】
・2025年8月期:売上高2,567億円(前期比14.3%増)、純利益111億円(37%増)で過去最高
・コロナ前は売上高1,500億円前後 → 直近2,567億円まで拡大
・国内の既存店客数は15%増
※出典:サイゼリヤ 2025年8月期決算/Business Insider Japan
「安く感じるからたくさん頼む」「みんなで分け合う」。結果として値上げをせずとも一人当たりの単価が上がる構造が生まれました。値上げの代わりにコストを下げる。発想の転換です。

値上げしないって決めるのも、勇気がいるよね。「据え置きます」って言い切ったことが、お客さんの信頼につながった感じがして。

ただし、ここは個人店が一番マネしちゃいけない部分でもある。体力のない店が無理に価格を据え置いたら、ただ自分の首を絞めるだけだよ。
ドン・キホーテ:物価高を「集客の追い風」に変える発想
ドン・キホーテを運営するPPIHは、物価高を脅威ではなく「安さを求める人が増える環境」と読み替えました。
主役はPB(プライベートブランド)「情熱価格」。
顧客の声を商品開発に直接反映し、「安いだけでなく炭酸が強い」といったニーズに応えた商品を定番へ育てています。
さらに食品強化型の新業態を、2035年までに200〜300店舗展開する計画も打ち出しました。
【ドン・キホーテ(PPIH)の結果】
・2025年6月期:売上高2兆2,468億円、営業利益1,623億円でともに過去最高
・36期連続の増収増益を達成
・売上の約41%が食品関連。majicaアプリ会員も大規模に拡大
※出典:PPIH 2025年6月期決算/Business Insider Japan
バブル崩壊もリーマンショックもコロナも乗り越えての36期連続。
逆境を「需要の後押し」に変える視点の力を、見せつけられた思いです。
スーパー・個人店に学ぶ物価高の売上アップ術
大手の戦略は壮大すぎて遠く感じるかもしれません。でもここからの2つは、個人店にこそ刺さる物価高対策です。
ヤオコー:「節約」と「プチ贅沢」の二極化対応で売上増
埼玉地盤のスーパー、ヤオコーが捉えたのは消費者の「メリハリ消費」。節約と贅沢を使い分ける行動変化です。
EDLP(常時低価格)や「厳選100品」で節約ニーズに応えつつ、総菜の「デパ地下化」で高付加価値のプチ贅沢ニーズにも応える。一つの客層に絞らないのが特徴です。
生鮮・総菜の商品開発力という、競合が真似しにくい武器を磨きました。
【ヤオコーの結果】
・2025年3月期(連結):純利益201億円(前期比11%増)で33期連続の最終増益
・単体では36期連続の増収増益
・既存店は売上高6.0%増、客数3.1%増、客単価2.7%増
※出典:ヤオコー 2025年3月期決算/日本経済新聞
節約する人にも、ちょっと贅沢したい人にも、どちらにも居場所をつくる。これは席数の少ない個人店でも、メニュー構成で十分に再現できる考え方です。
個人居酒屋:「価格の理由」を語り値上げで常連を増やした成功事例
そして本命、ある都内の創作居酒屋の話です。
コスト高でメニュー価格の改定を迫られたとき、この店は「なぜ上げるのか」を丁寧に伝える道を選びました。
「契約農家の野菜比率を引き上げます」と宣言し、価格改定のお知らせをテーブルに置き、SNSで食材へのこだわりを発信したのです。
あわせて、高単価×少品数へメニューをシンプル化。原価率の低い副菜やドリンクをセット化して利益率も改善しました。結果として、価格改定後にむしろ常連が増えたといいます。
【消費者は「理由ある値上げ」を意外と受け入れる】
各種調査では、約7割の消費者が外食の値上げを実感しつつも、過半数が「値上げは仕方ない」と理解を示しています。一方で、納得感のない値上げや質を伴わない値上げには厳しい反応が出るのも事実。問われているのは「値上げの有無」ではなく「伝え方と中身」です。
※出典:飲食店ドットコム ジャーナル ほか各種消費者調査

値上げしたのにお客さんが増えるって、ふしぎだね。黙って上げるのと、理由を話して上げるのとで、そんなに変わるものなの?

「値上げ」が悪いんじゃなく「理由なし値上げ」が悪い。理由を語れば、それは値上げじゃなくて約束になる。お客さんは敵じゃなく味方になってくれるんだよ。
物価高で売上を伸ばす飲食店に共通する「逆転の法則」
規模も業態もバラバラの5社。
でも、根っこにある考え方は驚くほど似ています。表で整理してみます。
| 企業・店名 | 施策の核心 | 逆転のカギ |
|---|---|---|
| スシロー | ダイナミックプライシング | 値下げと値上げを同時に設計 |
| サイゼリヤ | コスト構造の変革+DX | 値上げせずにコストを下げた |
| ドン・キホーテ | PB強化+食品業態拡大 | 物価高を需要の追い風と読んだ |
| ヤオコー | 節約×プチ贅沢の両取り | 消費の二極化に両方対応 |
| 個人居酒屋 | 価格の理由を語る | 値上げを信頼に変換した |
値上げか値下げかではなく「価値の設計」で考える
5社に共通する最大の点は、「値上げか値下げか」という二択で悩まなかったことです。
彼らが考えたのは「価値をどう設計するか」。下げるところは下げ、上げるところは上げ、伝えるべきは伝える。発想の土台が一段高いのです。
物価高対策は「コスト削減」と「付加価値」を同時に動かす
もう一つの共通点が、守りと攻めの同時進行。DXやセット化でコストを締めながら、総菜やPB、こだわり食材で付加価値を上げる。
片方だけでは続きません。両輪をそろえてこそ、物価高の中でも利益が残るのです。
【物価高で売上を伸ばす5つの逆転法則】
1.「値上げか値下げか」ではなく「価値をどう設計するか」を考える。
2.データや顧客の声を商品・施策に反映する。
3.理由を丁寧に伝える(沈黙値上げをしない)。
4.コスト削減と付加価値向上を同時に行う。
5.アプリ・DX・SNSを活用してスピードを上げる。
18年店主が実践した物価高の値上げ・客単価アップ術
ここからは、データではなく現場の話を少し。私自身が店で経験したことです。
メニューを減らしたら客単価が上がった話
2024年以降、仕入れの価格通知を見るたびに頭を抱えました。
正直、数字だけ見ていると苦しいばかりです。
ある月、思いきってメニューをシンプルにし、原価率の高い一品を外してみました。すると、どうなったか。注文が看板メニューに集中し、むしろ客単価が上がったのです。仕込みもラクになり、廃棄も減りました。
品数の多さが正義ではないと、身をもって知りました。
値上げの告知に返ってきた「応援するよ」の声
値上げの告知を、手書きのポップに書いて貼ったこともあります。びくびくしながら。
ところがお客さんから返ってきたのは、「大変だよね、応援するよ」のひと言。
あのとき確信しました。理由を伝えれば、お客さんは味方になってくれる。沈黙して上げるのが一番もったいない、と。
まとめ:物価高は飲食店の「淘汰」ではなく「選別」の時代
最後に、この記事の要点を整理します。
・倒れる店と伸びる店の分かれ目は「物価高そのもの」ではない。
・伸びた5社は「値上げか値下げか」ではなく「価値の設計」で考えた。
・物価高対策はコスト削減と付加価値向上を両輪で動かす。
・個人店の最大の武器は「価格の理由を語る物語」。
| 今日からできる物価高対策 | 具体的なアクション |
|---|---|
| ①メニューを見直す | 原価率の高い1品を思いきって外してみる |
| ②値上げの理由を語る | 価格改定の背景をSNSやポップで「物語」にする |
| ③客単価を上げる | 原価率の低い副菜・ドリンクのセット化を1つ試す |
倒産する店と、成長する店。分かれ目は物価高ではありません。変化を言い訳にしたか、機会として使ったか。ただそれだけです。
いまは「価格競争から価値競争へ」の転換点。小さな個人店でも、物語を持てばブランドになれます。

物価高って、こわいニュースばかりだと思ってた。でも見方を変えれば、チャンスにもなるんだね。わたしも一歩、踏み出してみる!

まずは1品の見直しから、やられっぱなしじゃ終わらないよ!今日も同じ飲食の世界で、がんばっていきましょう!


