「“父親らしさ”の正解なんて、最初からなかった。」
完璧じゃなかった。
でも、ちゃんと向き合ってたつもりだった。
それが伝わらなかったとき、
私の中で何かが、音を立ててズレ始めた。
「もっと父親らしくできないの?」
怒鳴り声じゃなかったけど、
その一言は、沈黙に包まれてナイフみたいに刺さった。
子どもの前で言われた、それが一番痛かった。
保育園に送り出して、
ゲームにも付き合って、ご飯を一緒に作った。
洗濯して、干して、風呂掃除もした。
完璧じゃなかったけど、やってた。
でも、“やってた”は、評価されなかった。
“やらなかった日”だけがカウントされた。
叱られるより、
いなかったことにされる方がキツい。
会話は痩せていった。
ガリガリのダイエット状態。
言葉は単語に、
単語は無音に、
無音はゼロカロリーの沈黙になった。
でもね、
沈黙は、感情のナイフ。
見えないくせに、ちゃんと切れる。
しかも、誰にも気づかれない。
だから余計に痛い。
「父親らしく」って、誰基準?
家にいるのに、居場所は“圏外”。
笑ってる子どもの声すら、
どこか遠くに聞こえた。
話し合おうとしても、
「で、何が言いたいの?」
……いや、それ、こっちのセリフ。
譲っても、折れても、
すり減るのはいつもこっちだけだった。
「大事なものを見失うのって、だいたい“我慢してるとき”なんです。」
反撃のたぬき語録
静まり返った部屋で、
心が静かに、確実に、欠けていった。
言葉をかけるタイミングを何度も逃して、
気づけば、もう何も言わなくなっていた。
壊れたんじゃない。
風化しただけ。
波にさらわれる砂の城みたいに、
ゆっくり、でも確実に形をなくしていった。
私は、なにを守ろうとしてた?
誰を納得させたくて、
誰に期待してたんだろう。
「この生活、いつまで続くんだろう?」
天井を見ながら、
そんな問いだけが、何度も頭を回った。
コメント