突然は必然にやってくる
ランチ営業目に在庫確認をしていた。
いつものように、淡々と。
仕込みも終わって開店準備も整った。
そんな“なんでもない日”。
一本の電話が鳴った。
それが、すべての始まりだった。
「すみませんが…契約、解除させていただきたいんです」
「三か月後には退去をお願いします」
相手の声はどこか他人事で、冷たかった。
「え、どういう意味ですか?」
言葉に詰まった。頭が真っ白になる。
理由を尋ねても、返ってきたのはひと言だけ。
「大家さんの都合で、です」
売上はそこそこ出ていた。
近隣と揉めたこともない。
騒音も、苦情も、問題は何もなかった。
盆暮れは菓子折り持参であいさつをして、大家さんとの関係は良好だった。
だからこそ、余計に理解できなかった。
「……嘘でしょ」
それ以外、何も言葉が出なかった。
ただ、ただパニックだった。
反射的に急いで移転先を探した。
不動産屋に通い、条件に合う物件を必死に見た。
でも、そんな物件あるはずがない。
考えた末たどり着いたのは
「この場所、買い取らせてもらえませんか?」という提案だった。
言うなれば、ハズレ馬券を握りしめたまま万馬券を夢見るような話。
現実味なんてない。けど、そうするしかなかった。
不動産屋に相場を聞いたら、普通に億を超えると言われ引きました。
少しの蓄えはあるけど資金が全く足りない。
何件も頼み込んだ銀行にも断られた。
実家に頭を下げた。
ありがたいことに、「一千万まではなんとか」と言ってくれた。
でも、まだ全然足りなかった。
最後の望みとして、“あの人”にも話すしかなかった。
この状況を説明して、「お願いだから、あなたの親に相談してもらえないか」と。
情けない気持ちを押し殺し、頭を下げた。
──まさか、説教されるとは思わなかった。
「自分勝手にやってきて、困ったときだけ頼るなんて都合が良すぎる」
ピシャリと拒絶されたその瞬間、心のどこかで何かが切れた。
ああ、この人とはもう終わりだ。
この人の「家族」では、もういられない。
そう確信した日だった。
離婚を決めたのも、この日だ。
あちこち走り回った末、やっとひとつの地銀が手を差し伸べてくれた。
金利は高くなってしまうけど、背中を押してくれるだけで救われた気がした。
今でもあの担当者には感謝しかない。
間違いなく私の人生を救ってくれた人だから。
親からの融資は断った。定年退職後の貴重なお金を借りるなんてできなかった。
契約を勝ち取り、立ち退き問題は“表面上”は解決した。
けれど──
気づいたときには、15人いたスタッフのうち、14人が辞めていた。
この騒動の裏で、任せていた二番手のスタッフが、ここぞとばかりに壊して去っていった。
火消しに走るまわる間に、足元から店は崩れていった。
「居場所を守りたかっただけなのに」
気づけば、守るべき仲間たちはもういなかった。
反撃のたぬき語録
“最悪の出来事”って、カレンダーに書いてない。
——でも起こる。しかも、いつも今日という日を選んでくる。
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