社会からの評価を下された一ヵ月⑥

信用は数字でしか語れない

「お世話になっております」何百回、頭を下げただろう。

汗ばむ手で名刺を渡して、

「なんとかお願いできませんか」って言葉を繰り返す毎日だった。

飲食店をやっているだけじゃ、
誰も、金なんか貸してくれない。


あの日、私は“ただの人”になった。
確定申告の数字と、売上と、肩書き。
それがすべての“価値”を決める。

法人とはいえ、所詮は個人経営の規模。
決算書は節税のために“整えて”いたから、見映えは良くなかった。
そもそも、こんな大きな借り入れが必要になるなんて思ってなかった。

大手の銀行は、入り口の空気でわかる。
笑顔が貼りついた受付に、肩をすくめる自分。
言葉に出される前から「お断りです」と言われている気がする。


地元の信金、紹介された地銀、大手銀。
「検討します」から、返事がないまま消えていく時間。
現実は静かで、確実で、じわじわ首を絞めてくる。

ダメ元で、実家に頼った。
嫁にも、泣く泣く相談した。
この状況なら…と、どこかで期待していた。
でも返ってきたのは、「勝手すぎる」の一言と、
小言のような、説教のような、冷たい拒絶だった。

ああ、もう完全に終わったんだなと、思った。


それでも、止まれなかった。
すべてを失っても、守りたい場所があったから。

むしろ、ここしか居場所がない。

移転も考えた。物件を探しまくった。
でも、そんなうまいこと話は進まない。
だから、ギャンブルみたいな行動にでた。

「この場所を、買い取らせてくれませんか?」

勝ち目がないレースだとわかっていても、
スタートラインに立つしかなかった。


一ヵ月後までに提示額を用意できれば成立する。

この一ヶ月間、走り続けた。
無理だとわかってても、動き続けた。

最後の最後に、一本の電話が鳴った。
地銀の担当者だった。
「まだ確定ではありませんが、通る見込みはあります」

その言葉に、声が出なかった。
電話を切ったあと、涙がでた。


一ヶ月でわかった。
世間は、数字でしか人を見ない。
でも、その中にも、ちゃんと“人”はいた。

突き放した人、黙って離れた人。
見て見ぬふりをした人、あざ笑った人。
そして、ほんのわずかでも、手を差し伸べてくれた人。

誰が自分に何を感じていたか。
社会は、私をどう見ていたのか。
それが一ヶ月で、全部わかった。


反撃のたぬき語録

突き放された数と、救われた数。
どっちも、たぶん一生忘れない。

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